MISIAの森-Forest Covers

ライナーノーツ

 誰もが想像だにできなかった経験と感情を呼び起こされた2011年。激動の1年の区切りとなる12月に、 MISIAがキャリア初となるカヴァーアルバム『MISIAの森 -Forest Covers-』をリリースする。今作を制作することになった 経緯を「ごく自然な流れ」と語ったMISIA。昨年行ったライヴハウスツアーやアジアツアーでも歌ってきた 『Can't Take My Eyes Off Of You』のカヴァーに続き、映画『friends もののけ島のナキ』主題歌としてチャーリー・チャップリンの名曲 『Smile』を歌ってほしい、という依頼が舞い込む機会が重なるごとに、 “カヴァーアルバム”という形が浮かび上 がるようになっていったようだ。その想いを形にすべきと、背中を押したのは3月の東日本大震災だった。MISIA自身が過去からの 贈り物である名曲たちに励まされたことを契機に、歌い継ぐことの大切さを強く意識したという。『MISIAの森 -Forest Covers- 』の収録曲の多くが珠玉のソウルミュージックであることから、一見、彼女のルーツを探る作品にも映る。しかし、「もちろん 、私自身が影響を受けたアーティスト達の楽曲です。けれど、何より選曲で重点を置いたのは、今の時代に伝えたいと思った言葉、 メッセージを持っている楽曲であるということでした。」と彼女は言う。

 そんな想いからリストアップされたのは100曲以上。さらに、歌いながら確かめ50曲程度に絞り込んでいったという。 それだけでも大変な作業だろうが、歌詞に使われる言葉遣いはもちろん、曲が生まれた時代背景に至るまでつぶさに調べ上げ 厳選に厳選を重ねた。かといって、決して小難しい作品になっていない。ベトナム戦争を嘆いた『What A Wonderful World 』をはじめ、環境問題をいち早く取り上げ、呼びかけたマーヴィン・ゲイ『Mercy Mercy Me』など、重厚なテーマやメッセ ージを綴ったものも少なくないが、影が色濃いからこそ、光もより強く輝きを放つものだ。MISIAもきっと、楽曲に潜む大 きな希望の種を皮膚感覚で強く感じたのかもしれない。

 また、かねてより慈善活動などを積極的に行ってきた彼女は、その行いが広く認められ昨年3月に国連より生物 多様性条約第10回締約国会議(COP10)の名誉大使の任をあずかることになり、現在も精力的に活動している。タイト ルである『MISIAの森』も、実際に石川県津幡町にある森林公園内にある森で、MISIAは森と森の保全活動を舞台に生 物多様性のメッセージを発信する活動をしている。その名がついたこのアルバムには、そんな生物多様性へのメッセ ージもまた込められている。詳しくはMISIA自身が語る各曲コメントを参照にしていただきたいが、『今の時代に森 からのメッセージを感じることは、私たちの心においても、未来においても大切なものを再確認出来ることになると 思います。』そう彼女は言う。

 そんな必然とも、偶然ともつかない大小の事実が積み重なって完成した『MISIAの森 -Forest Covers-』は、 結果的に幅広く、懐深い作品となった。 そしてなにより、言葉の力を持つ希代の名曲を実に巧みに、そして繊細 に歌い分けるMISIAのシンガーとして力量に改めて圧倒される。また、その歌声を柔らかく彩るサウンドも心地よ く、1つのアルバム、1つのクリスマスギフトとして心から楽しめる。今回のカヴァーを通じて「多くを学んだ」 と語ったMISIA。過去を振り返り、慈しみながら歌った『MISIAの森 -Forest Covers-』には、アーティストとして さらなる広がりを見せ始めたMISIAの今、そして未来までもが詰まっている。 
(橘川有子)

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